2021年2月19日金曜日

全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術 山川恭弘 大前智里

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アントプレナー向け「夢をかなえるゾウ」

失敗を恐れずに経営の世界に飛び込みなさい、という啓発本。(ちょっと辛口で恐縮ですが)ストーリーとしては陳腐だったかも。『全米ナンバーワン』というタイトルも他人の褌で相撲取ってる感がちょっとして、とにかく本を売りたい!という気持ちは伝わってきます。

この本で著者が伝えたいのは、『失敗してナンボ』ということと『うまくいかなかったらすかさずピボットしようぜ』ということなのだと思います。あと、『人脈は大事』かな。本書に登場する主人公はお弁当屋さんを始めるのですが、なかなか順調には進まず、人脈に助けられてチャンスをつかんでいきます。

なぜかカリスマが関西弁

「夢をかなえるゾウ」のガネーシャもそうですが、主人公を諭すカリスマは決まってアクの強い関西弁(すぐ出てこないですが、ほかにも数冊読んだ気がする)。同じ著者?と思いましたが違う人でした。

身近な問題を身近な範囲で解決するアントプレナーは今後増えるか?

この主人公は、近所の子供の食生活を改善しようと考えて子供向けの弁当屋を開業するのですが、働き方としてある種理想ではあるものの、このようなスタイルが『働き方』として定着していくか?というとなかなか現実味に乏しい気がします。著者が描きたかったテーマは『失敗を糧とする起業家マインド』ということで、ビジネスの内容や働き方についてあまり緻密な描き方はなされていないのですが、(たぶんそのせいで)いまひとつ腹落ち感がありませんでした。

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2021年2月12日金曜日

アフターデジタル 藤井保文 尾原和啓

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良いモノ作り.append(オンラインサービス)では戦えない

私自身も『日本はなんとなく先進国』と思っている一人ですが、世界を見るとどうもそうではない様子。著者は中国在住だそうですが、中国のITの活況を見て、日本の状況を憂いておられる。本書で語られる『中国のITの凄さ』は主にBtoCですが、購買行動をデータ化して購買体験の向上や流通やなんかの最適化を追求する姿勢は確かに日本の2歩も3歩も先を行っている感じ。『いいものを売りたい』のではなく、『いいサービスをモノを通じて提供して、サービス全体の質を向上させる』という考え方は、確かに著者のいう通り、我々に不足している視点と感じます。たとえば、エアコン作っている会社が『外出先から制御できる新機能を付けました!』なんていう広告を見たことがありますが、まさに典型的な感じ。この場合、『快適な空気環境に住める』というサービスがベースにあるべきであって、エアコンはその1ツールに過ぎないのでしょう。

モノはサービスにとってモジュラー型がインテグラル型か

日本型の『いいものをつくれば売れる』では勝てない、と書かれていて、それは確かにその通りと思うのですが、サービスが上から下まで統合されてしまうことには若干の危機感も覚えました。藤本隆宏先生の『モノづくりのアーキテクチャ』で、対極にある『モジュラー型』と『インテグラル型』の議論を思い出したのです。要するに、あるサービスの一部に不安や不信、不満を覚えた際、『その部分だけを別のサービス(モジュール)に切り替える自由があるのだろうか?』という疑問です。たとえばアリババみたいなコングロマリットがヨーロッパにあったなら、サービスの要素を標準化して市場を開放せよ、となるでしょうし、それが健全なことと私は思うのです。

とはいえ、そんな世の中が幸せなのか?

便利なサービスを受けるには、自分の行動や信用スコアなどのプロファイルをサービスのプロバイダ側にある程度開示する必要があるわけですが、アルゴリズムにいちいち先回りされる世の中に正直ぼくは『そこまで便利になってほしいとは思わない』という感想でした。本の中で語られる内容に『店頭でコーヒーを買う際、お金を払う行為はユーザにとって不快な体験であり、それを感じさせなくするシステムができていて…』という話があるのですが、『支払い』という痛みを麻痺させる狡猾なシステムに映ってしまった。ほかにも、個人の資産や納税額がネットにフルオープンにされているエストニアの例が取り上げられていますが、『うへぇ』という感じ。クレジットスコアを高めるためにゲーム感覚で善行を積み重ねる、とか、個人的には『アルゴリズムに操られるのは御免だな』と感じます。

『ナッジ』の妥当性すら議論の対象になっているというのに

ナッジとは『世の中をよくするために、行動経済学なんかを駆使して、本人も意識しないままに個人の行動を誘導する』ことなのですが、これが『個人の自由な選択を阻害しているのではないか?どこまでなら許されるのか?』という議論があります。健全な議論と思います。…が、本では中国の『信用スコア』による行動変容の誘発がむしろ礼賛されていて、この価値観は全体主義な中国ならではに思えます。そんな社会はイヤだな、というのが正直な感想。

とはいえこれはゴールではない

大絶賛の『UXを中心に据えた中国のサービス開発』ですが、今後、エネルギーの枯渇やCO2の排出制限がいよいよ求められる中では、『個人のワガママにどこまでも応えてくれるサービス』というのは制限をされていくべきと思います。個々に宅配をしてくれる世の中ではなく、再利用可能なタッパーを持って、個人が自転車でスーパー行って、量り売りで野菜を買う、みたいな消費行動への回帰も(それが持続可能な社会に必要なのなら)検討されるべきと思うのです。徹底的にUXを磨いて売り上げ増を目指す姿は、持続可能なのか?という点からも評価されるべきと思いました。


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2021年2月5日金曜日

空腹ねずみと満腹ねずみ 上 ティムール・ヴェルメシュ

 

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ヒトラー復活の次は、難民問題

日本ではあまり報道されていなくて馴染みもないのですが、ひところ、地中海の沿岸に子供の遺体が漂着したり、大勢の難民を乗せたボートが転覆して大勢が亡くなったり…という事件が起こっているという話は耳にします。島国たる日本ではほとんど馴染みのない難民問題ですが、国境が陸続きのヨーロッパ諸国では非常に身近な問題の様子。人道的には受け入れることが理想ではありますが、現実として『彼らの生活の費用をだれがどのようにして賄うのか?』という問題があります。
後から知ったのですがこの著者は『帰ってきたヒトラー』を書いた人でした。前作と同じく社会がタブー視しているところを敢えて題材にする、というスタイルなのかもしれません。

マスコミを痛切に批判するスタンスは健在

『帰ってきたヒトラー』もそうでしたが、物語の中心にいるのは、『視聴率さえ取れればといのだ』というメディアの人たち。弱者の側に立ち、難民キャンプに人気キャスターを送り込んで、お涙頂戴のドキュソープを放映したところ、事態が思わぬ方向に発展し…というもの。『帰ってきたヒトラー』は物語の起点が『ヒトラーのタイムスリップ』という荒唐無稽なものですが、こちらは格段に現実味があります。

撮影クルーのガイド役に雇われていた難民の一人が、本人も意図しないまま『大行進』の先導役となり、大量の難民がドイツに向かて徒歩での移動を始める…というところで上巻が終わります。登場人物みんなが社会問題に切り込んでいくのかと思いきや『難民を救うのだ』という使命感を持っているのは人気キャスターただ一人で、それ以外の人たちは自分のことしか考えていない、という対比が面白い。

結末が気になります。

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2021年1月30日土曜日

グレート ・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界

 

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コロナ禍による社会の変化を前向きに捉える

コロナ禍の中、政府批判する本や記事が巷に溢れています。風土も法律も基本的人権の考え方も全く違う他国を引き合いに、『あの国はうまくやってるじゃないか、なのに』という意見には本当に辟易してしまっているのですが、テレビみてても野党の振る舞いをみててもそんなのばっかり。どんな政策をとったとしても、恩恵を受ける人とそうでない人は必ず出るでしょうし、一人ひとりが意見を発信できる中にあって、目立つ反対意見ばかりをセンセーショナルに取り上げて為政者を批判したところで何も生まないと思うのです。解決方法に正解などあるはずもなく、すべては手探りなのだからしょうがない。その中で、個人としてできることをみんながやっていくしかない、と。

本書は、現在の各国の対応を批判することなく、各国の文化や取りうる対策、その結果を俯瞰的に見たうえで、社会として何が強みになって、何が弱みとなりうるのか、を語ってくれているように思います。そして、むしろこのコロナをきっかけとして世の中を改善しよう、という意気込みを与えてくれるように感じました。


グレート・リセットするのか、元の社会に戻ろうとするのか

私はコロナ禍で殆ど会社に行かなくなり、もっぱらリモートワークの日々を過ごしています。毎日の通勤には往復で3時間以上を費やしていましたが、いまではその浮いた時間を、家族の食事の準備をしたり、掃除や洗濯をする時間に充てるようになり、家族の中での役割分担を『リセット』して新しい生活を過ごしています。

コロナが収束したら以前の生活に戻りたいか?と聞かれたら、私はNoです。そんな市民がたくさんいるでしょうから、マクロな視点で見れば社会もいろいろな側面から変革を求められる筈で、本書ではその姿を政府、テクノロジー、経済、環境、社会基盤などの様々な観点から解説してくれます。

おりしも、SDGs が声高に求められるようになり、温暖化の進行による将来の壊滅的な状況を避けるには『このままではいけない』『いまがその分岐点』と言われたタイミングでした。本書によれば、コロナによって排出が減ったCO2は前年比 8%程度。けっこう凄いことだと思うのですが、これだけ経済縮小の痛みを伴ったCO2削減でも、気候変動を抑える水準には程遠いとのこと(実はIT機器が消費する電力が、相当に大きいために大して減っていないそう)。エネルギー消費が減ったことは長期的には社会にとってよい変化ではあると思うのですが、コロナという強烈な衝撃であっても、我々の社会に求められる『リセット』はまだまだぜんぜん足りないようです。

だからこそ、本書に列記されている『あらゆる観点でのリセット』に前向きに取り組まなければいけないのでしょう。


変化は避けられない

先日、NHKスペシャルの『”夜の街”で生きる~歌舞伎町 試練の冬~』を視聴しました。田舎者の私からすると、ホストクラブやキャバクラなどは『不真面目に世の平和を謳歌する』というイメージだったのですが、実態は全く逆。『安全な娯楽を真面目に提供する』ことに真面目に真剣に取り組んでおられました。その中で、『歌舞伎町はこれからも続く、自分たちが終わらせてはならない』という趣旨の発言がありました。行政にやり玉に上げられ、その不公平と戦う姿は『歓楽街だって真面目に頑張っている』ことを実感させられるものでした。しかしながら、いま起こりつつあることは、『行政がスケープゴートにしようとしている』のではなく、『歓楽街へのニーズそのものがリセットされようとしている』と映りました。

私の仕事も同様。世の中が変わって、自分の仕事が大きく減ってしまうようなことは起こらないとは言えません。何が安泰かなんてホントにわかりません。様々なリセットの中には自分が損をするようなものもたくさんあることとは思うのですが、私は社会の一員として、『仕事が危うくなってきたら…』という恐怖はあるものの、『社会が持続のためにあっちこっちでリセットされる』を肯定的に考えていきたいと思いました。


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2021年1月25日月曜日

コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった マルク・レビンソン

 

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物流のグローバリゼーションがどのような経緯を経て作られたか、という歴史が語られる本。横浜の大桟橋からコンテナを満載した船を見たことがありますが、あのような大量&低コストの流通網が構築されるまでの紆余曲折が語られる本でした。

数々の闘争の産物

コンテナは世界共通のサイズで、そのまま鉄道にも搭載できるように設計されていて…なのは何となく想像できます。みんなが共通規格に従えば従うほど効率は上がるのなら、みんながWindows使うのと同じように規格は自ずと統一されていくものだ(ネットワーク外部性というやつ)、と思いきやとんでもない。本書は、原題の統一規格なコンテナ輸送が、それこそ様々な争いによって作られたものである、と教えてくれます。

たとえばこんな闘争が描かれていました。
  • 効率化で仕事を失う沖中氏(おきなかし:船と陸の間で荷揚げ荷下ろしをする作業員)とコンテナ導入で効率化を図る経営者との争い
  • コンテナのサイズや積み上げの機構、固定の機構に関する主導権争い
  • 輸送船のサイズ競争
  • 鉄道と船のコスト競争
  • 輸送費用を維持したい輸送会社の連盟団体と非加盟の輸送会社との荷主争奪戦
  • 港の覇権争い
  • などなど
驚きだったのは、多くの闘争が『既得権益(自分たちの仕事)を守ろうとして規制や団体交渉でイノベーションを阻もうとする勢力』との闘いであるという点。現代に例えると、『メールを導入したせいでFAX処理の担当者の仕事が無くなるなんて許せない』ということなのですが、『なるほど、そりゃ争うよね』とは思えません。とはいえ、環境の規制も、経営者倫理もコンプライアンスもまだまだ発展途上の時代、資本家がそれこそ好き勝手やって儲ける世の中で労働者が様々に闘ってきた、ということなのでしょう。

世界の変化はこれからもきっと続く

本書は今のコンテナ流通も最終形態ではない、と結びます。数年前だったら『とはいえ、これ以上劇的な変化なんてないでしょう?』と感じていたとは思いますが、CO2排出規制やコロナによる経済の縮小を目の当たりにして、むしろ『やはりまだまだルールは変わるに違いない』と思わざるを得なくなりました。

本の帯の『ビルゲイツも大絶賛』に若干のうさん臭さを感じてしまった本でしたが、新しい観点から歴史が学べる本としては面白かった。タイトルは『THE BOX』でしたが、テーマはハコそのものにあるのではなく、結局はハコを通じて人々がどうふるまってきたか、ということなのですね。

Photo: https://unsplash.com/@tobiasamueller


全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術 山川恭弘 大前智里

https://unsplash.com/@austindistel アントプレナー向け「夢をかなえるゾウ」 失敗を恐れずに経営の世界に飛び込みなさい、という啓発本。(ちょっと辛口で恐縮ですが)ストーリーとしては陳腐だったかも。『全米ナンバーワン』というタイトルも他人の褌で相撲取...